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千石先生の思い出


2022/12/01

連載9 コスタリカにて

| by 管理者

 『て・・・・・』

    け?

 『Te・・・・』

    け?

消え入りそうなか細い声で『て』と発音する千石先生に、朝食担当のウェイターはきょとんとするばかりだった。けっ? が現地の言葉で なんだって? って意味なのだろう。業を煮やした千石先生は、やおら筆者のほうに振り返り、ふたたび『て・・・』と仰って、カップを手にもつしぐさをした。

うきぃ? サルになった筆者は首をかしげて先生をみつめる。先生は、しきりとご自分の喉をゆびさして、『あ・・・さ・・・ あ・・かん・・ねん・・・こ・・・え』

ひらめいて、サルから人間にもどった筆者は『千石先生は朝に弱くて声が出ず、お目覚めに紅茶(て・・)を御所望である』ことを悟った。先生にミルクかレモンか伺い、筆者はちょっとイラっときてるウェイターに向きなおって素晴らしい発音のカタコト英語で紅茶を注文した。

通訳が成立すると先生は身を乗り出して声を絞り出す。

『つ・・・い・・・ま  つぇ・・・・ん・え・・・・いつ・・・も・・こう』

いえいえいえいえいえいえ もうムリして話さなくて結構です。これから朝は気をつけますから。事情がわかれば大丈夫です。復活されたらまた楽しいお話しきかせてください。

筆者に押し戻された千石先生は、サンサンと照りつけるコスタリカの太陽にむけて椅子をずらす。まさかと思うが先生はバスキングをしないと一日の活動がはじまらない外気温動物なのだろうか。念のため頭頂部にへんなウロコがないか確認してみたが普通の人類と同じだった。でもたしかに目の前の千石先生は太陽にむかってエネルギーを吸収しつづけている。なるべく胸をくつろげながら陽を浴びる姿は、肋骨をひろげて体を平らにして太陽光と直交しようとするアガマの行動にそっくりだ。この行動をとった際にオレンジ色の綺麗な模様が目立って、チョウチョのように見えるトカゲをバタフライアガマというが、目の前の先生はわくわく動物ランドのTシャツを広げているのでさしずめ『わくわくアガマ』だ。

ここはコスタリカの国立公園に隣接するホテルのテラス。今日から千石先生と夢の駄洒落天国・・いや動物三昧の日々だ。筆者は、わくわくアガマと化した千石先生を観察しながらニヤニヤした。意外と旨かったコーヒーを飲みながら、さらにニヤニヤする。というか東京を出てからずっとニヤニヤしている。これがニヤニヤせずにいられようか。

国際航空旅行サービスという恐ろしくスキマ産業な旅行会社がある。この会社は、地球の辺境にばかり客を案内し、そこで化石発掘だの昆虫採集だのバードウォッチングだのを行う。

そして、ツアーの看板となるのが、ガイドを勤めるその道のプロたちであり、ツアーのウリ文句が『○○先生といく何処何処』となっている。わかりやすく言えば丹波哲郎といく冥界ツアーとか、宇根先生といく食肉検査場ツアーとか、五箇先生といく蟻退治とか。そんな具合だ。

ここ数年、この会社のドル箱となっているのが千石ツアーと銘打った世界動物めぐりの旅である。過去にニューギニア アマゾン マダガスカル ボルネオ オーストラリアなどが催行されている。

『て・・・』を飲みながら徐々に体温をあげ、生理活性を高めつつある千石先生を前に、筆者がコスタリカ・コーヒーを飲みながらニヤニヤしている舞台こそ、『千石先生といくコスタリカ』である。世界有数の生き物密度をほこり、そのどれもが筆者好みの種類である、この世の天国コスタリカ。これらの生き物たちを御題とした駄洒落の連打をBGMに千石先生の自然ガイドが展開されるのだ。               つづく

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筆者注:朝食当番のウェイターは、千石先生の『て・・(紅茶)』というオーダーに、何?に相当する言葉を返していたわけですが、ウェイターが実際になんと言っていたのかは、よく憶えていません。スペイン語で何?と聞き返すには何ていえばいいんでしょうね。

とりあえず、この場は、あのとき聞こえたままの『け?』にしときましたが、スペイン語に詳しい情熱的な会員の方がいらっしゃいましたら、正確な情報お待ちしております。語調としては、志村けんの『あんだって?』に近いものがありました。

 国際航空旅行サービスのツアーはいまでも個性的なものが多く、読者のみなさんも時間があったらぜひHPを訪れて、好みのツアーを物色されてはいかがでしょうか。宇根先生と行く食肉検査場ツアーが実在しなくて残念ですが、ターシャ・テューダーの庭には心惹かれます。また、我こそはと思うフィールドワークの専門家の方は、わしがツアーの講師になっちゃる!と売り込んでもいいかもしれません。筆者の脳裏には、とある役員の方の存在が思い浮かんでおります。


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