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千石先生の思い出


2023/02/01

連載 11 千里眼はド近眼?

| by 管理者

カラカラ!

疾走するバスの中で千石先生が突如として叫ぶ。

カラカラ! カラカラ! カラカラ!

お~い。誰か先生に飲み物を。なんてボケをかまそうものなら思いっきりどつかれそうな千石先生の形相に、筆者はすばやく状況を読み取り添乗員に伝令する。

バスを止めてください。先生が生き物を発見されました。

運転手が日本語を解さない人でよかった。あのスピードと路面状況で急ブレーキを踏まれた日には間違いなく大事故だ。

私→添乗員→通訳兼現地ガイドの女性→運転手という伝言のタイムラグによって、車はすっかり先にすすんでから停車した。

カラカラがおんねん! あのへんまでもどれ! 先生が後方を指差す。

みっけたらすぐに皆で見ないと、次の瞬間にその場所にその生き物がいるとは限らないのが観察会の常である。反応スピードが大切だ。バスは先生のはやる気持ちに反してノロノロとバックしていく。先生は前後のシートの背をつかみながら後方を凝視し、もどかしそうにシートを握りしめる。

牧場のゲートのような鉄柵のところにもどると、はるか右手遠方に2羽の鳥らしきものがみえる。やや直立気味に地面に立ち、なんとなくシロクロのツートンにみえる。

鳥が好きな方にはおわかりだと思うが、ハヤブサに遠縁の猛禽類。カラカラである。ツアー客の中でも鳥が好きな連中は狂喜乱舞してバスを飛び降り、双眼鏡やカメラをかまえる。やがてカラカラはうっとおしそうに飛び去っていったが、観察ツアーとしてはどうにか間に合った形だ。私も双眼鏡で鮮明にカラカラの美しい姿を堪能できた。千石先生ありがとー!

カラカラと叫ぶ直前。たしかに千石先生は車の進行方向を向いていたように思う。車窓の右手も、チラチラ見てはいたのだろうが、凝視はしていなかった。よくあのカラカラを見つけたもんだと感心する。このツアーに限らず、フィールドで御一緒したときの千石先生はいつだって第一発見者。高性能動物センサーだった。ただし、見つけると先生本人が嬉しくなってしまって興奮状態にあるため、スゴイのを発見したときは必ず動物名の連呼となるのが珠に傷だ。あれでは普通の人には通じない。

 

 

『テレビでな、あらかじめ下準備をしておくことを ばみる っていうねん。もともと舞台で立ち位置の目印にテープを張っておくことを意味するんやけど、それが転じて、やらせ に近い手配のことを ばみる っていうねん。』 国立公園の専属ガイドが先行する深い森の中で千石先生が語る。

『このガイド。かなりばみってるな』

たしかに、このガイドが行く先々には『動かない系の珍しい動物』が鎮座していることが多い。このガイドの兄ぃちゃんは、芝居がかったオーバーアクションと口調で、『まてまて。なにか動物の気配がする。』とか『ふんふん。におうぞ におうぞ』などと言ってから、やおら赤いレーザーポインターをふりむける。痩せて死に掛けたソリハナハブが倒木の上で発見されたり、かきわけた藪の先に見える立ち枯れの高木の梢にオオタチヨタカが止まっていたりする。『おお!こんなところに!』って指し示されたマツゲハブも、確かにわざとらしいっちゃ、わざとらしかった。

いつもならば観光客相手に、喝采を浴びて得意満面な仕事なのだろうが、千石先生がいるせいで、ガイドの兄ぃちゃんはすごくやりにくそうだ。兄ぃちゃんが ばみっておいた動物達よりもはるかに多く、はるかに素早く、千石先生が次々と生き物を見つけてしまうからだ。解説もはるかに濃い。おいおい!こんな客が来るなんて聞いてないよぉとでも言いたげなガイドの困り顔をよそに、千石先生が指し示す生き物は多種多様だ。足もとのコケから、森の木立にいたるまで、おそらくはガイドの辞書には載っていないことまで語られていくので、やがてガイドの兄ぃちゃんは出番なしとなり、貝になってしまった。気の毒だ・・。まぁ相手が悪かったと諦めるしかないだろう。

 

千石先生が外国の取材から戻られると、その土産話のスライドショーが開催され、情報交換会の面々は心待ちにして聞き入った。その中で、よく出てくるエピソードが、珍種の発見。この国立公園で20年ガイドをしているけどこいつを見たのは2回だけだ・・・と現地のナチュラリストがため息を漏らすほどの珍種を、先生は到着と同時にヒョイとみつけて写真にとるのだ。ホンマかいなと疑いたくもなる話であるが、なにしろこの類のエピソードが非常に多い。ヒメアリクイしかりタテガミオオカミしかり、ガラパゴスのコダマヘビもそうだ。釣り番組で村田基さんが必ず最後に記録的な大物を釣り上げるのと似ている。

 いわゆる『もってる男は違う』というやつだろうか。まぁ我々としては後をついてまわりさえすれば珍しい生き物が次々検出されるのだからラッキーである。千石先生とツアー客の関係は水牛とアマサギのそれに似ている。

 水曜スペシャルのエンディングシーンは、SWATのテーマ曲に乗せて、田中信夫さんが『が!・・・しかし! ついに我々はその姿を見ることができなかった・・・』というナレーションで〆るのが定番だった。一度たりとも視聴者が『その姿』を見ることはない。千石先生の場合は、しっかり結果を出してくるので、番組制作会社の人たちはさぞかし重宝したと思う。なんなら藤岡弘さんといっしょにUMAを探す旅に出てほしかった。雪男や野人やモケーレムベンベを千石先生がカメラの前に連れ来てくれたかもしれない。

 次々とみつかる生き物の中には、小さなヤモリや何の変哲もない昆虫なども含まれる。なんとなれば、そんなムシいいじゃん。となりがちであるが、千石先生はそれをゆるさない。先生は見つけた生き物を必ずいったん捕まえる。メガネのレンズにヤモリが当たるんじゃないかというほど対象物を目の近くにもっていって、凝視する。矯めつ眇めつとはこのことだ!というお手本のように、様々な角度から観察する。ひたすら見入る。ただ、あまりにも対象物が顔に近いので、ドリフのコントのようで、ふざけてんのかな?と思ってしまう姿でもある。

 しばし経ってから、やおら先生はそのヤモリの種名を告げる。和名がない奴は学名である。地球の裏側の森にひっそり暮らす、こんなちっちゃなヤモリの学名がヒョイっと出てくる脳みそに敬服する。森を歩く一日のうち、先生は何十回も小動物を自らの顔面におしつけて種を同定していく。

そのしぐさを見るたび、どんだけ目が悪いんだと思うが、これまたコントの小道具のような瓶底眼鏡が先生の視力をよく代弁している。まちがいなく相当な近眼で物がよく見えないのだ。なのに、カメラのピントを合わせるのは早い。愛用のαsweetにくっつけたレンズはオートフォーカスではないので、自分でピントを合わせるのだが、あれだけ目が悪いのに、出来上がった写真の出来はいつもすばらしい。

 しかもである。あの点景だったカラカラを疾走するバスの中から見つけ、駄洒落でもりあがって注意散漫にもかかわらず、遠くの木立の緑に隠れるケツァールをみつけるのだ。目ぇ悪いの?いいの? どっちなの?誰もが疑問に思うことだろう。

 いちど、何で?と先生に聞いたことがあるが、しばし沈黙の後、先生は 俺にもわからんねん。と答えてくれた。

ド近眼だけどものの見方は近視眼的ではない。先生の目のしくみは謎のままである。

そして、なぜプチ関西弁なのかも謎である。        

 つづく

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筆者注:自然観察会でレーザーポインターは結構便利だと思いました。おどかすと逃げやすい生き物なんかを指し示すには最適です。場合によっては光の点を餌と間違えて寄ってきますのでおもしろい姿がみられることもあります。ねこじゃらしにも使えます。

 カラカラは本当に素敵な鳥でした。どうも私は直立する鳥が好きみたいで、子供の頃は馬鹿ほどニワトリを飼っていましたし、いまは自宅で孵卵器から育てたカンムリウズラがいます。ヘビクイワシなんてのはもう垂涎の的で、あんな素敵な生き物になら蹴られてもいい・・って思います。それから、カグーという美空ひばりさんみたいな頭をしている鳥がいるんですが、あれはすごいです。カグーを観察に行くツアーがあったらいいなと思います。ミカドヤモリ類やジュゴン、カレドニアガラスなどと合わせ技で千石ツアーが十分成立したことでしょう。天国に一番近い島だっていう話しですから、現地集合にしたら先生も参加できるかもしれません。ちょっと降りてきてもらえませんかね?って。タイトルは千石ツアー番外編:幻のメイオラニアを探せ! 先生が天国から担いできたメイオラニアをさりげなく ばみ っておいてくれるに違いありません。


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