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千石先生の思い出


2023/01/01

連載10 あれなる火山はアレナル火山

| by 管理者

「ジャングルという言葉は本来、原生林を意味しない。熱帯地方で、森林が人の手で破壊されたあとに生えてくる2次的な密林をジャングルというのであって、これから我々が歩き回る豊かな森は、ジャングルではない。ジャングルの王者ターザンは本当はジャングルには住んでいないのです。ここの森は、原生の熱帯多雨林あるいはレインフォレストというのが正しいのです」。ツアー客がたびたび口にする『コスタリカのジャングル』という言葉に千石先生からダメ出しが出る。

夕食のあとにひらかれる『千石教室』に皆、熱心にメモをとる。客の一人でありながら、千石ツアーの生みの親とも言われ、旅行会社の添乗員顔負けの世話役をしている『まめぞうさん』が作ったガイドテキストには今回のツアーの見所が詳しく記されている。皆はそのテキストに千石先生の言葉を書き込んでいく。

千石先生は、国際旅行の講師の中でも親切な講師として有名だった。中には自分の興味が先走ってしまい、参加者ひとりひとりの体力や健康状態などおかまいなしで、あわや砂漠で遭難・・といった暴君もいる中で、千石先生は絶えずツアー全体に目をくばり、会話する人に偏りがないか、誰かつまらなさそうにしていないか、体調の悪い人はいないかと気を遣っておられた。現地人ガイドのアバウトな采配のせいで、ツアー全体が山奥で危機的な状況に陥ったときにも、千石先生は『地の果て経験』の豊富な頼れる存在として、みごとにその場を仕切りなおして窮地を切り抜けることもあったそうだ。

千石先生の、喧嘩上等でワイルドな若い頃を知る一世代前の方たちは、そういう話をすると、意外そうにする。俺達にはもっと厳しかった・・と。ところが筆者以降の若い世代から見た先生の印象はまったく違って、とにかく親切。見ず知らずの私にもこんなに親切にしてくださって・・と感動した人は数多い。先日、古い時代の情報交換会の会員の方とお会いする機会があったときに気が付いたのだが、千石先生の歴史には、KTラインのごとき「人付き合いの境界線」があるようだ。カンタンにいうと、千石さんと呼ぶ昔からの仲間と、千石先生と呼ぶ我々との違いである。おもしろいことに、千石さんと呼ぶ世代の方たちは、爬虫類の世界に我々の世代が押し寄せて、一様に「千石先生」と呼ぶ姿を見て、『私も千石先生って呼んだほうがいいですかね?』と千石をからかったそうである。先生はいつも「ばかやろ」と苦笑いで返していたとか。

さん と 先生 の違い。おそらく、千石先生から見て、身内とお客さんの違いがあるのかもしれない。テレビの千石先生を慕う世代は、言うなれば先生にとって読者だったりファンだったり生徒だったりのお客さんであり、それ以前の仲間は同じ逆境に耐えてきた同志といったところなのだろう。

というわけでお客さん世代である我々は、千石先生にいろんなファン・サービスをしてもらえてラッキーだった。

『ボク ランブータン! 木からおっこちちゃったけど このままだとハナグマに食べられちゃうんだ!』なぜか千石先生は鬼太郎の目玉おやじのモノマネが好きだ。あまり似てないけど。

地面に沢山おちているランブータンの実を指人形のようにして、突如として目玉おやじの声で人形劇をはじめる千石先生。

『ぼくもランブータン。木の上に逃げてもリスザルに食べられちゃうからこのままいっしょにニッポンに帰ろう!』とりあえず付き合いで柴田恭平のモノマネで参戦すると、千石先生はすこぶる機嫌がいい。ランブータンという果実の原産地や食べ方についてもひとしきり解説してもらえるが、その間も絶えず先生の目は生き物を探している。こんどは30m先にとらえたハナグマの亜種についての解説がはじまる。

 

あれなる火山はアレナル火山でございます。

 

 

一日フルに、先生の解説つきで『原生熱帯雨林』を歩き回った一行は良い意味で疲労困憊しており、もはや誰一人、先生の駄洒落に反応しない。先生は心なしか悔しそうだ。火山の麓の温泉リゾートは、プールサイドのパラソルに、カクテル・バーとオイルマッサージ・コーナー完備の別世界である。見上げればプールのすぐ傍のガレ場から一気に山頂まで広がる溶岩の斜面。しかも噴煙はモクモクと立ちのぼり、火山弾こそ飛んでいないが小さく噴火していて、ガラガラガラガラと岩が転げ落ちてきている。火砕流でも発生したらこんなリゾートはひとたまりもなく、ポンペイの遺跡のようになってしまうだろう。1000年後の発掘調査で、『スネークフックをもったポニーテールの日本人がプールサイドを疾走し、その先にはスペックルドレーサー・・・』という化石が発見されて考古学者は頭をかかえるだろう。西表の浜に出現したトップレスの妊婦事件を彷彿とさせる発掘現場である。

あとから知らされたが、その地域は政府指定の危険地域で、リゾートの営業は認められていないのだそうだ。ちなみに、夜になってホテルの部屋からみたアレナル火山は、中腹あたりまで真っ赤に燃えていた。昼間ガラガラくずれていたのは、岩の崩落じゃなくて溶岩流だったのだ。おおらかにも程があるが、とりあえず話しは昼間の温泉プールにもどる。

 トムクルーズというよりはスーパーマリオに近いバーテンダーのつくるカクテルで一行はひとときの休息を取る。しかし、ガチの爬虫類愛好家である名古屋から来たハンサム・ガイは休むことを知らない。

彼はプールサイドに現れるグリーンバシリスクを、裸足に水着という格好で猛烈に追いかけ、緑色にアオコの沸いたハスの池にとびこむ。真っ黒い泥水が跳ね上がる。太ももを血だらけにしながら、捕獲したグリーンバシリスクを高々とかかげる。彼こそが我が国きっての蛇のブリーダーであるK氏である。野口五郎をさらに美男子にしたような涼やかな横顔は、満面の笑みだ。太ももから下は血だらけだけど。破傷風とか平気なのだろうか。

 『ここのビール1000コロンもとりやがって、結構ぼるけぇのぉ(ボルケーノ)』千石先生はアレナル火山の不発を取り戻したいらしく、一人でなんかおっしゃっている。でも誰も反応してくれない。野口五郎はグリーンバシリスクを名残惜しそうに森に返す。

 ビールがうまい。                            つづく

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筆者注:アレナル火山のリゾートが本当に無許可営業なのかどうかはわかりません。ウワサを聞いただけですので。営業妨害だ!というスペイン語の訴状が届いたら困るので記しておきます。

 余談ですが、千石先生のファンサービスには、駄洒落以外に、モノマネがありました。目玉おやじのほかにも、久米明さんのモノマネがお好きでした。久米ヒロシじゃありません。久米明です。

『今日は村祭りだ』『村人たちは大喜びだ』『ブタを殺そう・・長老が言った』

 まるで、博士と助手~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権のようですが、皆さんおわかりでしょうか。1966年から日本テレビで放送されていた、日立ドキュメンタリー素晴らしい世界旅行という番組のナレーションです。ああ懐かしい。

 久米明さんのものまねは『おい鬼太郎 ねずみ男を知らんか?』よりはるかに秀逸でした。


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