監訳にあたって

 2002年に爬虫類と両生類の臨床と病理の研究会(SCAPARA)を設立し、現在に至るまで、国内外の爬虫類、両生類に関する情報を収集、発信し続けている。本研究会を立ち上げた理由は、日本には多くの爬虫類が輸入されており、その数は、生きて輸入される動物のおよそ半数、年間数十万頭にもなる。そして、これらの動物のほぼすべてがペットとして流通しているにも関わらず、獣医学教育でこの種の動物に関する教育は行われていない。また、当時、基礎的な知識、医療に関する知識や技術の情報がきわめて乏しく、環境の動物といわれる爬虫類が、不適切な飼育・取扱いや、情報不足により消耗、消費される状況を変えたい、救いたいとの思いがあったからである。
 この度、縁があって、本書の監修に携わることになり、いやがうえにも、爬虫類の医療に関する莫大な記述に接して驚いた。以前より、哺乳類の疾病を研究対象として、これに比較すれば、爬虫類医療に関する基本的な知見やデータが不足しているのではないか、小動物臨床で汎用されている機器であっても爬虫類には適用できないのではないかと漠然と思っていた。そして、疾病の病理発生を考える上でも、治療するにしても、動物の解剖生理、特性を十分理解した上でないとアプローチできない。その意味ではなかなか難しい動物だとも・・
しかし、本書では、爬虫類の解剖生理をしっかりと記述し、鱗、甲羅などのアプローチしにくい動物をものともせず、各種の医療機器を駆使する診療、治療法が掲載されている。欧州ではこれほど医療技術が高いのかと、そして、欧州の獣医師がどれほどの情熱をもって、爬虫類の診療に携わっているのかと感嘆する。動物にかける思いは、どこの国であっても違いがない。日本語で書かれた本書が発行されることによって、海外の爬虫類診療の状況を知り、日本の爬虫類診療技術が向上し、さらに日本発の情報発信ができることに期待する。日本には多くの爬虫類は輸入される。リクガメに至っては世界の流通量の16%を日本が占める。診療対象が多種多様で数が多いことは、それだけチャンスがあるということで、さらに救う命が目の前に多くいるということである。
本書の刊行にあたり,日本の爬虫類診療の発展に寄与するであろう本書の発行を企画していただいた株)学窓社の山口勝士様,編集部の鈴木夕子様、そして、翻訳、監修に多大な労をとっていただいた田向健一先生に感謝する. 

2017年6月 
麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根 有美

 
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