ホーム
 
 
「記事を書く」をクリックしていただくと、Word同様のエディタが開きます。
書き込み後は必ず下に表示されている「決定」ボタンを押さないと、内容が投稿されないのでご注意下さい。画像は500kbまでのJPGかGIFをご用意下さい。
 

千石先生の思い出


2022/08/01

連載その5 潜入!! 爬虫類両棲類情報交換会

| by 管理者

塚がつく地名には心霊スポットが多いらしい。千石先生に教えられた『謎の集会』が開かれるという文京区の大塚公園も、都内有名心霊スポットのひとつとなっている。なんでも江戸時代の刑場跡なのだそうだ。爬虫両棲類に魂を奪われた男たちが、夜ごとあつまり爬虫両棲類談議にふける心霊スポット。どんだけぇ~♪な世界に私はいよいよ足を踏み入れることになる。

謎の集会の名は、爬虫両生類情報交換会という。古くは、ワニの研究家として有名な青木良輔先生(先祖がロシア人説あり)と、我らが千石先生の若き日の爬虫類談義に端を発する。二人の間で交わされる会話を何か記録に残さないのは惜しいという千石先生の提案で、『爬虫両棲類雑記』という小冊子の発行がはじまり、『談義』を楽しむ同好の志を募って発足したのが『爬虫両生類情報交換会』なのだそうだ。このあたりの経緯も爬虫両棲類学会報第2012巻 第2号に書かれているので一読をおすすめする。

爬虫両生類情報交換会の談話会の会場は、あちこち転々とした経緯がある。その中でも、きわめつけに都市伝説的な会場が、ガロの大ヒット曲「学生街の喫茶店」のモデルになったと言われる『丘』という喫茶店だ。実際にボブディランが流れたかどうかは不明であるが、名曲の流れるこの喫茶店には、近隣の大学の学生があつまり、『おしゃべり』を楽しんだらしい。

80年代に学生時代を送っていた筆者からすると、60年代~70年代の学生のお兄さん・お姉さん達が薄暗い喫茶店に集まって『おしゃべり』をすると聞くと、火炎瓶や鉄パイプを持ち寄って「総括」している姿を想像してしまうが、千石先生たちの集った『丘』は学生運動もボチボチ下火の頃らしく、店内にはSFやアニメを愛好する若者たちが集っていたらしい。当時はオタクという単語がなかったが、今で言うオタクの聖地の様相を呈していたのだろう。若き日の千石先生たちは、ここでアニメ・オタク(当事はアニメ・ファンといった)たちを尻目に『爬虫類』を熱く語り合っていたのだそうだ。さらに言うならば、語り合うどころか袋に入れたボア・コンストリクターを店に持ち込み、実物を手にしながらのレクチャーという暴挙にも出ていたらしい。このエピソードは、東邦大学の長谷川雅美教授の「とかげのおかげ」というエッセーで紹介されている。当時、坊主頭の少年だった長谷川教授が見た、夢のような情報交換会の様子は、喫茶店の一般客からすれば、おそらく悪夢のような、「異星人現る」の図だったと想う(威力営業妨害の図ともいえよう)。これは、熱く語る病理学者と飲食店に入ると周りの目が気になるのと近い状況かもしれない。ともあれ、今現在、爬虫類ペットがホームセンターにすら売られているという社会現象の原点がここにあったと言っても過言でない。

筆者の愛する『水曜どうでしょう』というローカル番組のファンの間には、聖地めぐりの旅という遊びがある。番組で紹介されたロケ地をめぐってブログなどに旅行記を綴るという地味な趣味であるが、筆者のホームグラウンドである西表島では、いまでも港で寝釣りをしたり、サバ缶を一個もってロビンソン小屋を訪問する若者が跡をたたないという。 

もしかしたら、千石先生の青春そのものであった爬虫両棲類情報交換会の聖地めぐりをしたい人がいらっしゃるかもしれないので、『丘』の場所を紹介しておきたい。もちろん今は閉店してしまっているが、聖地とはそういうものだ。JR御茶ノ水駅を降りて、明治大学方面に少し下った右手にCONANというゲームセンターがある。この店が『丘』の跡地である。当時の面影はない。当時の喫茶店ってどんなんだろう・・・という方は、そのまま御徒町まで歩を進めていただきたい。上野と御徒町の間あたりに、『丘』という喫茶店がある。御茶ノ水の『丘』のマスターの弟さんがやっている店だそうだから、当時の『丘』の雰囲気が多少なりとも伝わってくるに違いない。純喫茶といえばメニューはナポリタンがおすすめだ。ちなみに御徒町の『丘』も、昭和39年開業の店なので、いつまで営業しているかわからない。思い立ったらお早めに。             (つづく)

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

筆者注:余談が多い!とお怒りの読者諸兄もおられるかと想いますが、おかまいなしに、さらに余談をつづけます。

『丘』がガロの学生街の喫茶店のモデルだという事実はないそうです。それでも未だに、『丘』はあの名曲の舞台だったと想っている人が沢山いるのは、そこで過ごした人たちが、『丘』での思い出をとても大切に想っているからだと思います。

日ごろ、スカパラの会員であることの恩恵を実感できない会員諸兄は、ぜひスカパラのワークショップのあとに開かれる懇親会にご参加いただけたらと思います。獣医業界の異星人が集まる不思議空間で、敷居が高い印象がありますが、とても気さくな集いです。なんと、笑顔の宇根先生に会えます。遠方からおいでいただいた方との出会いもあり、獣医学にとどまらない異文化交流もあり・・楽しい思い出が出来ること間違いなしです。若き日の千石先生と青木先生が熱く語り合った、純喫茶『丘』の傍流が大きく形をかえて麻布大学のカフェテリアに息づいていると思うと、感慨深いです。ぜひスカパラのワークショップの懇親会で楽しい思い出をつくっていってください。

なお、長谷川教授の「とかげのおかげ」は東邦大学生物多様性学習プログラムの一環として公開されています。楽しくてためになる素晴らしいエッセーなのでご一読をお勧めします。タイトルで限りなくオヤジギャグに近い韻の踏み方を見せるあたりは、長谷川先生も千石スピリットの正当な継承者の一人なんだなぁと、思わずニヤリとしてしまいます。


07:00 | コメント(0)
Copyright(C) 2013-2022 SCAPARA. All Rights Reserved.